日本には黒の化粧文化とも言える時代がありました。その代表的な例が歯を黒く染める「お歯黒」と呼ばれていた習慣です。明治以降法令で廃止されましたが、明治のころまで約1千年もの間、女性だけでなく男性もお歯黒をした時代がありました。今から見れば美意識の判断としては争いのあるお歯黒も、歯の健康にとってはたいへんよかったようです。というのも、お歯黒をつける前に歯の汚れ、つまり歯垢をとらなければなりません。そのため、自然の予防効果がありました。また、お歯黒の成分であるタンニンは歯の成分を収斂させて腐敗を防止します。事実、昭和51年当時、お歯黒を日常的にしていた最後の人といわれる96歳の秋田の女性は虫歯が一本もなかったようです。お歯黒をしている人が虫歯が少ないということで、大阪大学の山賀教授は歯の黒さと虫歯が少ないということに着目し、昭和50年に虫歯抑制剤のフッ化ジアミン銀を開発し、(乳歯が黒く変色する)勲4等を授かったのはわれわれ歯科会では有名な話です。現在も臨床に頻繁に使用されています。